
コミュニケーション戦略ものづくり白書2025から見えてくる、製造業と伝える力のこれから
2025.07.22
5月30日、経済産業省、厚生労働省、文部科学省の3省が共同で作成した2025年版「ものづくり白書」(製造基盤白書)が公表されました。
白書は、変化する環境のなかで製造業がどのような方向へ進もうとしているのかを示す内容となっています。
製造業は、日本のGDPのおよそ2割を占める基幹産業です。
しかし近年は利益や生産性が改善する一方、人材確保の難しさや脱炭素対応、サプライチェーンの見直しなど、いくつもの課題が重なりあっている状況が続いています。
白書のなかで興味深かったのは、各企業の取り組みのなかに“伝える力”の重要性が色濃くにじんでいる点です。
たとえば、大阪送風機製作所は、顧客の環境配慮ニーズに応えるかたちで、CO2排出量を自主的に算定し、付加価値のある製品づくりに取り組んでいます。
また、旭ウエルテックでは、熟練職人のノウハウを若手に伝えるため、社内で独自にデータベース化した「虎の巻」を作成し、技術の継承と若手育成を同時に進めています。
このような事例をリスクコミュニケーションの観点から見てみると、共通して「社内外にどう伝えるか」という工夫が施されています。
情報の開示や共有が丁寧に行われており、それが信頼につながっています。
特に、サプライチェーンや共同研究といった外部との関係性においては、平時からの情報のやりとりが、万一の際の備えにもなっているようです。
一方で、こうした情報共有や連携がうまく機能していなかったケースも現実には存在します。
たとえば、技術流出によって競合に模倣された製品が市場に出回り、企業ブランドへの信頼が揺らいだ事例もあります。
また、サプライチェーンの可視化が進んでいないことで、部品供給の遅延や原材料の調達トラブルが発生し、顧客や取引先からの信頼を失うケースもありました。
これらは危機管理広報においても重要な視点であり、企業の対応ひとつでレピュテーションへの影響度が大きく変わることがあります。
では、実務としてどういった点に取り組むとよいのでしょうか。いくつかのTIPSをご紹介します。
・脱炭素やDXの取り組みについて、社内で目的や進捗を共有するための場や資料を用意しておく
・危機時に慌てて説明するのではなく、平時から「何をどの順番で誰に伝えるか」のイメージを持っておく
・技術的な内容であっても、わかりやすくビジュアルで伝えられる工夫をチームで試してみる
・技術や知見の取り扱いに関する社内ルールを見直し、アクセス権限の設計や操作ログの確認体制を整えておく
社会環境や国際情勢の変化にあわせて、製造業のリスクや機会の形も移り変わっていきます。こうした動きの中で、RCIJでは「伝える力」をどう磨いていくかをテーマに、引き続き情報発信を行ってまいります。
参考情報
・経済産業省「2025年版ものづくり白書(ものづくり基盤技術振興基本法第8条に基づく年次報告)」
・経済産業省「製造基盤白書(ものづくり白書)」
・経済産業省「経済安全保障上の課題への対応(民間ベストプラクティス集)―第2.0版―」