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ESG地図・国名・文化_事例に学ぶグローバル企業が直面する表記リスクの構造と対応

2026.02.24

政治的・領土的な名称や文化・アイデンティティに関わる表記の誤りは、近年グローバル企業に深刻な炎上や不買運動を招いている。特にSNS上では地域ごとのナショナリズム感情が瞬時に広まり、企業のブランドイメージや業績に直結する事態となりがちだ。

本稿では、国内外のグローバルブランドが実際に経験した表記問題の炎上事例を調査し、各ケースの概要と学びをまとめる。

 

Contents

第1章 中国における「一つの中国」表記問題の炎上ケース

中国市場では、香港・マカオ・台湾・チベットなどを「国」扱いする表記や、中国政府の立場に反する記述がSNS上で激しい批判を招く。以下、代表的な事例を見てみよう。

■ Versace(ヴェルサーチ)──Tシャツが引き金に(2019年)

2019年、Tシャツのデザインで「Hong Kong, Hong Kong」「Macau, Macau」など都市名を独立した国家名のように記載した。中国のSNSで「中国主権を侵害した」と炎上し、同社は即座に公式微博(Weibo)で謝罪声明を発表。問題のTシャツは発売停止・在庫廃棄となり、中国人アンバサダーだった女優ヤン・ミーは契約解除を宣言した。チーフデザイナーであるドナテラ・ヴェルサーチ自身も「中国の主権を尊重する意図を欠いたことは一度もない」と異例の個人謝罪を表明した。

■ Coach(コーチ)──「国名表記の欠如」が問題に(2019年)

同じく2019年、Tシャツ上で他の都市は「City, Country」と表記する中、香港だけ国名表記を欠如させていたことが発覚。中国では「香港を中国の一部と認めていないのか」と批判が噴出し、微博上で謝罪に追い込まれた。中国アンバサダーのトップモデル劉雯は即座に契約を打ち切り、愛国的声明を出した。Coachは「当該Tシャツは2018年のコレクションであり、誤りに気づき次第グローバルで回収した」と説明しつつ、「中国の主権と領土的一体性を支持する」と表明。公式サイト上の表記も全面的に点検・修正した。

■ Givenchy(ジバンシィ)──香港・台湾を「国家扱い」(2019年)

同様にTシャツで香港・台湾を国家のように扱ったデザインが問題化。微博で謝罪し「誤植と管理ミス」を認め、中国の主権尊重を宣言した。アンバサダーの中国人歌手ジャクソン・イーは速やかに契約を終了し、「国家主権と領土保全は神聖不可侵」とSNSで声明を出した。Givenchyはウェブサイト等のコンテンツ修正と社内チェック強化を約束した。

■ Dolce & Gabbana(D&G)──文化軽視の代償(2018年)

上海ファッションショー直前に公開したプロモ動画が中国文化を揶揄する内容だと炎上。さらにデザイナーがInstagram上で中国人を侮辱する発言をしたことが暴露され、不買運動に発展した。ショーは中止、製品は主要ECサイトから排除され、創業デザイナー2人が慌てて中国語で謝罪動画を公開する事態となった。

このケースは「表記」そのものではなく広告表現や発言の問題だが、文化アイデンティティの軽視が炎上を招いた典型例として挙げられる。ブランド側の対応は謝罪こそしたものの、市場から長期間締め出される結果となった。

■ Marriott International(マリオット)──当局の制裁にまで発展(2018年)

中国向け会員アンケートで台湾・香港・マカオ・チベットを「国」として列挙するミスが発覚。微博で「中国の主権と領土保全を尊重します…誤解を招いたことを心よりお詫びします」と公式謝罪声明を発表した。さらにCEOが「分離主義勢力を支持しない」と中国政府寄りの姿勢を明言し、北京政府に恭順の意を示した。

当局は同社サイトとアプリを1週間閉鎖する処分を下し、関係部署が違法調査も開始。中国SNSでも予約キャンセルやボイコット呼びかけが相次ぎ、他のホテル各社もサイト表記の総点検を命じられる事態に発展した。

このケースは当局の介入企業サイト一時停止という厳しい処分に至った点で特筆される。Marriottはグローバル企業として中国市場を重視する一方、自社のESG原則(多様性尊重など)と中国政府への迎合とのギャップが指摘され、米国等では「言論より利益を優先した」と批判された。

■ Zara(ザラ)──当局に名指しされたアパレル大手(2018年)

自社サイトで台湾を「国」扱いしていたと上海ネット当局に名指しで非難され、即座にサイト表記を修正し謝罪した。当局はZara中国に対し謝罪文の掲載と社内調査・是正報告提出を命令。Zaraはこれに従い、その後も中国市場でのビジネス継続を選択した。

なお同時期、Delta Air Lines、Apple、Qantas航空など多数の外資企業が同様の表記を修正・謝罪している。特にQantasはウェブサイトの誤表記を「見落とし」とし、中国当局の要請に沿って訂正した。

■ Gap(ギャップ)──地図Tシャツで「領土欠落」(2018年)

カナダのアウトレット店で販売されたTシャツにプリントされた中国地図から、台湾・南シナ海・南部チベット(インドとの係争地域)が抜けていたことが判明。中国のSNSユーザーがWeiboに写真付きで指摘し炎上した。

Gapは「中国の主権と領土一体性を尊重している。不注意な誤りでご迷惑をおかけし誠に申し訳ない」と微博で謝罪し、該当商品の即時回収と焼却処分を発表した。再発防止のため「厳格なレビュー体制を導入する」と述べ、中国市場への配慮を強調した。この謝罪に対し米国や台湾からは「中国に迎合しすぎ」との声も上がり、グローバル企業の板挟み状態が浮き彫りになった。

── 中国関連ケースに見る共通構造

以上のように、中国関連のケースでは「一つの中国」(One China)原則に反する表記が即座に炎上し、中国人消費者のみならず政府機関からの制裁著名人の契約解除まで発展している。各社はいずれも迅速に謝罪・訂正を行い、「中国の主権尊重」という文言を盛り込んだ声明を発出した。また、問題となった製品の廃棄やサイト削除、担当者の処分、再発防止策の公表といった対策を講じている。

しかし、その対応が自社の他地域でのスタンスやESG方針と矛盾し、他地域の消費者・政府から批判を受けるケースもみられた(例:米国政府高官や台湾世論による批判)。この「板挟み」の構造こそ、グローバル企業が直面する最も困難な課題である。

第2章 その他の地域における表記・アイデンティティ問題の炎上ケース

中国以外の地域でも、政治的・文化的な表現を巡る炎上事例は発生している。ここでは北米、欧州、中東・イスラム圏、日本などで発生した主なケースを取り上げる。

■ Coca-Cola(コカ・コーラ)──クリミア半島の地図で「両陣営」から批判(2016年)

新年キャンペーンでロシアのSNSに掲載した地図画像において、ロシア領クリミア半島の帰属表現を誤ったことから、ウクライナ人ユーザーの猛反発とボイコット呼びかけを招いた。

当初、Coca-Cola社の代理店が投稿した地図にはロシアが2014年に併合を宣言したクリミアが含まれておらず、ロシア側から抗議を受けるとクリミアを追加した新地図に差し替えた。その結果、今度はウクライナ側が「併合を容認した」と激怒する事態に発展。ウクライナ在米大使館も「米政府の公式立場に反する」と抗議した。

Coca-Cola本社は「政治的意図はない。問題の投稿は削除し、深くお詫びする」と声明を発表。現地代理店の判断ミスと釈明しつつ、両国間の緊張に巻き込まれた。この事例では、各国支社や委託先によるローカルマーケティングが、国際紛争のセンシティビティに抵触しうるリスクが浮き彫りになった。

■ Mercedes-Benz(メルセデス・ベンツ)──ダライ・ラマの引用が招いた波紋(2018年)

公式Instagramにダライ・ラマ14世の名言(「あらゆる角度から状況を見よ、もっと開かれた心になれる」)を投稿したところ、中国系ユーザーから「チベット独立を支持するのか」と批判が殺到。同社は投稿を即削除し、中国版SNSの微博で「本日朝、国際ソーシャルメディアで非常に不適切なメッセージを発してしまった。深く反省し、全社で中国文化と価値観への理解を深め再発防止に努める」と謝罪した。

Instagram自体は中国では閲覧不能だが、グローバル発信が必ずしも中国当局の検閲壁に守られないことを示した例である。Mercedes-Benzは中国市場売上が世界の25%に達する事情もあり、企業として迅速に中国側へ譲歩した。一方でこの対応は西側諸国の言論支持者から「中国に屈した」と冷ややかに見られ、企業のスタンスに関する議論を呼んだ。

■ Nike(ナイキ)──ロゴデザインが宗教的タブーに抵触(2019年)

イスラム教圏では、商品デザインが宗教的アイデンティティを侵害すると炎上する事例もある。Nikeは新作スニーカーのロゴデザインがアラビア語の「アッラー」に酷似していると指摘され、1997年には製品回収と謝罪に追い込まれた。2019年にも類似の問題(Air Max 270のソール部分のロゴが「アッラー」に見える)がオンライン署名で拡散し、ムスリム消費者から製品リコールと謝罪要求が出されている。

Nikeは「意図したものではない」と釈明しつつデザイン見直しに言及するなど沈静化を図った。宗教的敬意に関わる問題は、その宗教圏全域で不買運動に発展する潜在性があり、ブランド側は文化・宗教専門家の事前チェック体制を敷く必要性が浮き彫りとなった。

■ Kim Kardashian「Kimono」事件──文化の私物化への反発(2019年)

米国のセレブ起業家キム・カーダシアンは2019年、新しい補正下着ブランドを「Kimono(キモノ)」と命名し発表した。すると「#KimOhNo」というハッシュタグと共に「日本の伝統文化を私物化している」と世界中で批判が噴出。京都市長が抗議書簡を送付する事態にも発展し、カーダシアン氏は「多様性と包括性を重視してきたブランド理念に反するとの声を真摯に受け止める」と即座にSNSで謝罪した。最終的にブランド名を「SKIMS」へ変更した。

このケースは、日本文化に対する文化的アイデンティティ尊重の観点からグローバルな炎上に発展した例であり、企業やブランドのネーミングが各文化圏でどう受け取られるか事前に考慮する重要性を示している。

■ MINISO(名創優品)──「偽日本ブランド」戦略の破綻(2022年)

中国発の雑貨小売ブランド「名創優品(MINISO)」が、自社を日本風ブランドと誤認させるマーケティングを行っていたとして、中国国内ネット世論で大炎上した。発端は同社スペイン語Instagramで、チャイナドレス姿の人形を「日本の芸者人形」と誤表記した投稿が拡散されたことである。

中国の愛国的消費者から「自国文化をないがしろにするのか」と批判が殺到し、MINISO本社は「創業当初、日本風戦略という誤った道を取ってしまった」と長文の謝罪声明を発表。2019年以降、日本的要素の排除に取り組んでいることを説明し、中国国外の1,900店舗についても看板・内装を含め「脱日本化」を進めると約束した。さらに当時のブランド戦略に関与した幹部を処分し、今後海外SNSアカウントは本社が一元管理すると表明した。

このケースは自国消費者のナショナリズムにも配慮しなければならない時代であること、また本社と海外支社のブランド戦略の不一致が深刻な批判を招くことを示している。

第3章 主な炎上事例の比較一覧表

各事例について、発生年・企業ブランド・問題となった表記/内容・炎上が起きた主な地域と反応・企業の対応と結果を以下の表にまとめた。ケース間のパターンや教訓を比較検討いただきたい。

ブランド(発生年) 問題となった表記・内容 炎上の地域・反応 企業の対応・結果
Versace(2019) ファッション Tシャツで香港・マカオを国名のように表記(例:「Hong Kong, Hong Kong」) 中国(Weiboで大炎上、不買・契約解除に発展)・女優ヤン・ミー契約破棄 微博で即謝罪。問題Tシャツ販売中止・在庫廃棄。デザイナー本人も謝罪
Coach(2019) ファッション Tシャツで香港を国扱いしない不備(他都市は「City, Country」形式) 中国(Weiboで炎上、#Coach謝罪要求が拡散) 微博で謝罪。問題商品世界中で回収。「主権尊重」声明発出
Givenchy(2019) ファッション Tシャツで香港・台湾を独立国のように表記 中国(Weiboで炎上、著名人が抗議)・歌手ジャクソン・イー契約破棄 微博で謝罪。問題デザイン撤回・サイト修正。再発防止策を表明
D&G(2018) ファッション 広告動画で中国文化を揶揄と受取られる内容。デザイナーのSNS侮辱発言流出 中国(Weibo等で炎上、EC取扱停止・ショー中止)・消費者による全面不買運動 デザイナー2名が中国語で謝罪動画公開。以降中国市場で長期低迷(売上激減)
Marriott(2018) ホテル 会員アンケートで香港・台湾・チベット等を「国」扱い 中国(Weiboで炎上、当局がサイト閉鎖処分)・予約キャンセル相次ぐ 微博で謝罪。当局命令で1週間サイト閉鎖。CEOが中国政府に恭順声明
Zara(2018) アパレル 自社サイトの国一覧で台湾を国扱い 中国(当局発表で発覚、謝罪要求)・上海ネット当局が名指し批判 指定期限までに謝罪文公表。サイト表記を訂正・当局に是正報告提出
Gap(2018) アパレル Tシャツ地図から台湾等を欠落 中国(Weibo投稿から拡散、ボイコット呼びかけ)・政府系メディアが批判報道 微博で謝罪。当該商品を全回収・焼却処分。社内チェック強化発表
Coca-Cola(2016) 飲料 VK投稿の地図でクリミア半島の扱い誤り ウクライナ(SNSで炎上、不買運動呼びかけ)・ウクライナ政府が抗議(※初期対応でロシア側にも配慮ミス) VK投稿を削除し謝罪。「政治的意図ない」と釈明。広告代理店の過失と説明
Mercedes-Benz(2018) 自動車 Instagramでダライ・ラマ引用投稿 中国系ユーザー(Instagramで批判コメント殺到)・中国本土でも報道され炎上 Instagram投稿削除・微博で謝罪。海外スタッフ含め教育徹底を約束。中国市場での販売維持優先
Nike(2019) スポーツ用品 スニーカーのロゴが「アッラー」類似と指摘 中東・イスラム圏(オンライン署名でリコール要求)・グローバルなメディアで議論 「意図せず」と説明・一部デザイン変更検討(1997年にも類似問題で回収・謝罪)
Kim Kardashian「Kimono」(2019) ブランド名 補正下着ブランド名に「Kimono」使用 日本含むグローバル(#KimOhNo拡散、文化盗用と批判)・京都市長が抗議書簡 SNSで謝罪しブランド名変更。新名称「SKIMS」発表
MINISO(2022) 小売(中国発) 日本風ブランディング戦略への批判(SNSで自社製品を「日本製」誤表記) 中国(微博で炎上、不買・失望感表明)・愛国消費者が国内外店舗を監視 長文声明で謝罪。日本的要素の除去を宣言。本社が海外SNSを一元管理へ

上記表から、炎上の起点(製品デザイン、広告、SNS投稿、サイト表記など)や反応の広がり方(消費者SNS投稿、著名人の離反、政府介入)、そして企業の対応(謝罪内容、是正措置、再発防止策)に共通パターンが見て取れる。一方、各社のガバナンス(本社と現地法人の役割分担や対応スピード)や、対応が他地域の利害と衝突したか(IR/ESG上の整合性)といった点には差異も見られる。

第4章 事例から学ぶべきポイント

上記のケーススタディから浮かび上がる教訓を以下に整理する。

1. 事前のリスク検知と多角的チェック体制

各国・地域の政治的・文化的タブーを把握する。 商品デザインや広告、ウェブサイトの国名表記リストなどは、発売・公開前に各市場の担当者や専門チームによる確認が不可欠だ。単なる翻訳ミスや見落としが国家間問題に発展する例(ZaraやGap、Marriottなど)が多発しており、「地図・国名・旗」の扱いは特に要注意ポイントである。少しでも微妙な場合は表示を回避する(例:国名を使わず地図や都市名のみ表示)など慎重を期すべきだ。

多様な視点からの検証を組み込む。 本社主導のキャンペーンであっても、現地法人・現地スタッフの視点で検証するプロセスを組み込む必要がある。Mercedes-Benzの例ではグローバルSNS担当が善意で行った投稿が中国で問題化した。異文化・他言語圏のスタッフが参画する表現チェック委員会を設けることが有効だろう。

ローカル代理店やパートナーの管理を徹底する。 Coca-Colaの事例では、現地広告代理店の対応が別地域での炎上を招いた。現地任せにせず、本社とローカルのガバナンスラインを明確化し、コンテンツ公開前のグローバル承認フローを構築することが重要だ。

2. 炎上発生時の迅速・誠実な対応

即時の謝罪と是正が被害拡大を左右する。 どのケースも炎上後の初動対応の速さが被害拡大を左右した。中国市場向けでは微博での即時謝罪が定石となっており、その他の市場でも公式SNSやプレスリリースで迅速に遺憾と訂正を表明することが信頼回復の第一歩だ。謝罪文では現地語を用い、現地の価値観に寄り添った表現(例:「中国の主権と領土を尊重」、「◯◯の文化を深く尊重」等)を明示することが効果的である。

誤った内容は完全に撤回する。 謝罪と同時に、問題の製品・投稿・デザインは即座に撤回・削除する必要がある。曖昧な修正や放置はさらなる批判を招く。実物商品であれば回収・廃棄まで行い、デジタルならキャッシュやミラーも含めて徹底削除し、訂正情報へ差し替える。

現地コミュニティとの対話を試みる。 可能であれば、炎上した地域の消費者・関係者との直接対話も有効だ。例えばブランドアンバサダーや有力インフルエンサーがいる場合、そのネットワークを通じて謝罪メッセージを伝える、誤解の解消に努めるといった対応が考えられる。もっともVersace等の例では逆にアンバサダーに契約解除されてしまったが、そのような場合でも誠意ある説明を試みることは大切だ。

3. 企業理念(IR・ESG)との整合性と板挟み対策

グローバル企業としての一貫性を保つ。 一地域への謝罪や迎合が、他地域のステークホルダーから見ると企業理念との矛盾と映る場合がある。MarriottやMercedes-Benzが中国当局寄りの姿勢を示した際、西側では「表現の自由や人権より利益を優先した」と批判された。自社の行動規範やESG方針(多様性尊重・政治的不偏等)を再点検し、「各国の法と文化を尊重する」という原則と衝突しない範囲での対応策を検討すべきだ。

例えば、「国家主権を尊重する」と表明しつつも、「当社は政治的主張を支持しない中立企業である」という立場も合わせて示すことで、特定政権の主張を積極支持するわけではない旨を暗に伝える工夫も考えられる。

社内ガバナンスと意思決定プロセスを整備する。 炎上対応時、本社と現地法人の意思疎通・役割分担が鍵となる。MINISOの例では、本社が海外現法のSNS運用を統制していなかったことが露呈し、本社一元管理に切り替えた。NBA(米プロバスケ)の香港デモ問題では、米国本部と中国向け広報で対応が食い違い批判を浴びた。これらから、有事の発信メッセージは一本化し、現地チームと本社広報・経営陣が即時連携できるクライシス対応フローを平時から整備すべきだ。

ステークホルダーへの説明責任を果たす。 一方の市場への対応が他方で問題視された場合、IRやグローバルメディアに対しても説明を行う。必要に応じて「○○市場での今回の措置は当社ビジネス継続のためやむを得ない判断だったが、基本的価値観は変更していない」といったニュアンスを伝え、株主や国際世論の理解を得る努力も求められる。

4. ブランド・マーケティング戦略の見直し

ローカライズ戦略を再評価する。 グローバル市場では自社のオリジンや理念を誠実に打ち出すことが尊重され、安易な偽装は各国消費者の信頼を失う。ブランド戦略は各国の消費者コミュニティからのフィードバックを定期的に取り入れ、「文化盗用」や「アイデンティティ矮小化」と捉えられないか慎重にチェックすべきだ。

商品企画段階から多文化意識を組み込む。 商品デザイン(例:Tシャツの都市国名一覧、地図柄、キャラクター表現など)は企画段階で各市場の多様なバックグラウンドを考慮する必要がある。グローバル統一商品であっても、ローカルに与える意味合いを検証し、不安要素があればデザインを調整するか発売地域を限定する判断も求められる。

広告・メッセージのグローバル一貫性を担保する。 広告キャンペーンでは、伝えたいメッセージが別の文化圏で思わぬ解釈をされないか注意する。D&Gの動画は西洋的にはユーモアのつもりでも中国では侮辱と取られた。Nikeのスローガンやロゴもイスラム圏では細心の注意が必要だった。クリエイティブレビューに各地域スタッフを参加させ、「この表現は自国ではNG」「この色や言葉は禁忌」といった知見を共有する場を設けるのが効果的だ。

5. 有事対応のガバナンスと倫理的判断

経営トップの関与と戦略判断。 炎上がグローバルニュースになるほど大きい場合、経営トップが関与して戦略判断する必要がある。特に国家間の政治問題に企業が巻き込まれたケース(MarriottやNBAなど)では、ローカルチームの判断だけでは乗り切れない。本社CEO/経営陣が法務・広報と協議し、企業のミッションと守るべき価値を踏まえた一線をどこに引くか決める。場合によっては「市場撤退も辞さない」覚悟で人権や価値観を優先する選択肢もありえるし、逆に市場維持のために最大限の譲歩をするケースもある。いずれにせよ、平時から方針シナリオを用意しておくことで有事の迷いを減らせる。

従業員への教育と支持を怠らない。 表記問題はしばしば現場レベルの認識不足から起こる。社員や関係者に対し、グローバル企業として政治・文化に関する基本的な知識と敬意を持つよう教育することが必要だ。たとえば「台湾・香港の呼称はデリケート」「宗教シンボルは扱い注意」「他国文化をマーケティングに使うときは現地の声を聞く」といった事例ベースの学習を取り入れる。また炎上時に社員が動揺したり対立陣営に巻き込まれたりしないよう、社内向けガイダンスを発信し、統一見解を共有することも大切だ。

第5章 グローバル企業に向けた対応

本稿で取り上げた事例は、グローバル企業にとって他人事ではない。実際、ある大手流通グループも最近SNS上で台湾の呼称問題に絡み批判を受け、謝罪する事態が生じた。以下に、これらのケースから得られた示唆を踏まえ、対応を提案する。

グローバルポリシーの策定

商品表示・宣伝における地名・国名・文化表現のガイドラインを明文化し、全グループ企業で遵守する。例えば「公式表記は国際連合等の標準に従う」「各国・地域の固有名称リストと推奨表現を用意する」「政治的スローガンや宗教的引用は投稿しない」など具体的規範を設定する。

表記監査プロセスの導入

新商品のパッケージデザインやキャンペーン内容について、リージョンごとのチェックチームを設置し、発売前に検証を行う。特に地図や国旗、名称表記が含まれる場合は法務・国際部門の監修も入れる。必要なら地域ごとに表示内容を変える(例:地図の差し替えや名称伏せ字化)ことも検討する。

SNS運用のルール強化

全社的にSNS投稿ガイドラインを再点検し、政治・文化に触れる可能性のある投稿は複数人でレビューしてから発信するフローにする。また海外現地法人のSNSアカウントについても、本社広報が定期監視し、問題発生時は迅速に介入できるよう権限を明確化する。

クライシスシミュレーション訓練

想定される炎上シナリオ(例えば「中国で○○の表記が批判される」「中東で商品デザインが誤解される」等)について社内でシミュレーションを行い、初動対応から謝罪・回収・再発防止発表までの一連を訓練しておく。各国法人とのホットラインも構築し、情報共有のスピードを高める。

企業姿勢の再確認

グローバル市民としての企業の在り方を経営層・従業員で議論し、「どんな場合でも譲れない価値」と「ビジネス継続とのバランス」を予め考えておく。例えば人権問題や歴史認識問題で炎上した場合、どのレベルまで歩み寄るか、謝罪文に盛り込まない一線は何か、といった判断基準を持っておく。これはIRやESG方針とも整合させ、ステークホルダーに一貫した説明ができるようにする。

おわりに──「炎上ゼロ」は不可能だが、備えることはできる

最後に強調すべきは、「炎上しないこと」が最善ではあるが、100%防ぐのは困難だという現実である。

重要なのは、ミスが起きた際にいかに迅速かつ適切に対処し、信頼を回復するとともに将来への教訓とするかだ。幸いにも各社の事例から学べる知見は蓄積されている。本稿が、読者の皆様の組織におけるリスクコミュニケーション体制の強化に資することを願う。

※本稿はRCIJが編集・掲載するものです。本稿に記載された事例・分析は公開情報に基づく調査研究を目的としたものであり、特定の企業・団体を批判する意図はありません。
※本稿の調査・執筆にあたっては、生成AIを補助的に活用しています。事実関係や時系列の正確性については可能な限り確認を行っておりますが、AI特有の誤認や情報の混同が含まれる可能性がございます。お気づきの点がありましたら、協会までお知らせいただけますと幸いです。
※本稿で紹介している事例分析やガイドラインはあくまで情報提供を目的としたものであり、個別企業の意思決定や施策についての助言を行うものではありません。実際の対応にあたっては、各社の状況に応じて専門家への相談等を行ったうえで、ご自身の判断と責任のもとで進めていただきますようお願いいたします。


「本記事のまとめ:FAQ」

グローバル企業が中国市場で「表記問題」により炎上を避けるための注意点は?

最も重要なのは「一つの中国」原則に抵触しないことです。具体的には、Tシャツやウェブサイトの国選択リストにおいて、香港・マカオ・台湾・チベットを独立した「国」として扱う表記は厳禁です。過去にはVersaceやCoach、Marriottなどが、都市名を国名と並列したりアンケートで国扱いしたりしたことで、当局の制裁やSNSでの大規模な不買運動に発展しています。

海外ブランドが直面する「文化の私物化(文化盗用)」の炎上事例には何がありますか?

代表的な事例として、2019年にキム・カーダシアン氏が補正下着ブランドに「Kimono」と名付けた騒動があります。これは日本文化への敬意を欠いた私物化であると世界中から批判を浴び、京都市長が抗議文を送る事態に発展しました。結果としてブランド名は「SKIMS」に変更されました。また、中国発の「MINISO」が自社を日本風ブランドと誤認させる戦略をとっていたことも、自国消費者からのナショナリズムによる反発を招いた事例として挙げられます。

政治的な地図表記のミスが企業経営に与えるリスクとは?

地図表記のミスは、複数の国家間の領土問題に巻き込まれる「板挟み」のリスクを招きます。例えばCoca-Colaは、ロシアのSNSでクリミア半島を含まない地図を掲載してロシア側から抗議され、修正したところ今度はウクライナ側から「併合容認」として猛反発を受けました。また、GapもTシャツの中国地図に台湾などが含まれていなかったことで中国国内で炎上し、商品の焼却処分を余儀なくされています。

宗教的なシンボルや表現をデザインに取り入れる際の懸念点は?

宗教的アイデンティティを侵害するデザインは、その宗教圏全域での不買運動に繋がるリスクがあります。Nikeはスニーカーのロゴがアラビア語の「アッラー」という文字に酷似しているとの指摘を受け、過去に何度も製品回収や謝罪を行っています。宗教的敬意に関わる問題は感度が非常に高いため、企画段階で文化・宗教の専門家による事前チェック体制を敷くことが不可欠です。

海外での炎上発生時、グローバル企業が取るべき初動対応の定石は?

「迅速な謝罪」と「問題箇所の即時撤回」が鉄則です。中国市場の事例(Versace、Givenchy等)では、Weibo(微博)での即時声明発表と、問題商品の回収・廃棄、サイト修正がセットで行われています。ただし、一地域への過度な迎合が他地域(例:欧米市場)での企業理念(ESGや表現の自由)と矛盾し、二重の批判を浴びる「板挟み構造」に陥る可能性があるため、経営トップが関与したグローバル一貫性のあるメッセージ管理が求められます。

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