IT衆院解散。選挙期間に企業がうっかり踏みかねない3つの地雷と、いま考えたい“中立”の話
2026.01.23
1月23日、衆議院が解散されました。 今回は投開票までの期間が16日間と、戦後最短となる選挙戦。世の中はここから一気に選挙の空気が流れます。
「うちは政治には関わらない方針だから関係ない」 もしそう思われているとしたら、少し認識をアップデートする必要があるかもしれません。
現代の選挙は、ほんの数年前までとは質が異なってきています。 生成AIによる情報の氾濫、SNSでの極端な意見の先鋭化、そして社会の分断(RCIJマガジン『2026年 リスクコミュニケーションの「新・座標軸」』の「アクティビスト化する社会」参照)が進む中で、企業は「意図せず政治的メッセージを発した」と誤解されるリスクに常にさらされることになります。
本稿では、選挙期間という「有事」において、経営層・経営企画・広報・総務・リスク管理担当者が警戒すべき3つのリスクと、その対策について緊急提言します。
1. 「意図せぬ支持表明」の拡散リスク
以前は「特定の候補者を支持していると見られる発言や行動をしてしまう」など、比較的わかりやすいリスクがありました。ところが今は、何もしていないのに、支持している“物語”が勝手に作られてしまうといった、やっかいなリスクも存在するようになりました。
- 「切り取り」と「背景」の罠
選挙カーがたまたま工場の前で演説をし、その背景に会社のロゴが映り込む。その写真や動画がSNSで拡散され、「〇〇社は、××候補を公認しているのか!」と、反対派から抗議が殺到するケース - 生成AIによるフェイク画像
候補者と企業の商品、あるいは経営者が握手しているようなフェイク画像が生成され、真偽不明のまま拡散されるリスク
【対策:物理的・デジタルな自衛】
- 施設管理の徹底:
選挙期間中、敷地内および敷地境界線付近での演説やポスター掲示に関するルールを現場(工場長、支店長)に再周知してください。「公平性」を理由に、一律でお断りするのか、所定の場所のみ許可するのか、基準を明確にしましょう。 - モニタリングの強化:
自社名と政党名・候補者名が一緒に語られていないか、普段より少しだけ注意深く見てください。誤解が広がりそうなときは、感情を足さず、「特定の候補者を支持する事実はありません」と事実だけを静かに伝える準備を。
2. 従業員の「個人の顔」と「会社の看板」の境界線
従業員個人が政治的な意見を持つこと、活動に参加することは自由であり、尊重されるべき権利です。しかし、SNSにおいてその境界線は限りなく曖昧になっています。
- プロフィール欄のリスク
Xなどのプロフィールに「〇〇社 営業部」と記載しているアカウントで、特定の政党への激しい批判や、ヘイトスピーチに近い投稿が行われた場合、世間はそれを「個人の意見」ではなく「〇〇社の社員の質」「〇〇社が容認している思想」と見なす傾向があります。 - 社内の「ポリティカル・ハラスメント」
職場内で、上司が部下に特定の候補者への投票を強要したり、昼休みに政治的な議論をふっかけて相手を論破しようとしたりする行為は、職場の心理的安全性を著しく損ないます。これを放置すれば、ハラスメント事案として内部告発(あるいはSNSへの暴露)につながりかねません。
【対策:ガイドラインの再通知】
- タイミングは“今”:
解散が報じられた“今”こそが、全従業員にSNSガイドラインやコンプライアンス規定を再通知するベストタイミングです。「個人の政治活動は尊重するが、会社名を出しての発信は誤解を招く恐れがあること」「職場への持ち込みに関するルール」を、禁止ではなく“マナー”として周知しましょう。
3. 「政策の空白」とシナリオ・プランニング
選挙期間中は、政策決定が事実上ストップします。しかし、ビジネスの時計を止めるわけにはいきません。 「経済安全保障」や「エネルギー政策」に関わる法案や規制強化のスケジュールなど、選挙結果によって変わる可能性があります。
- A党勝利の場合: 規制強化路線が継続し、サプライチェーンの開示要求が強まる。
- B党躍進の場合: 規制緩和へ舵が切られ、投資計画の見直しが必要になる。
どちらが正しいかを予想する必要はありません。「どちらでも慌てない」準備があれば十分です。
2026年の「中立」とは、「無関心」ではない
多くの日本企業は「政治的中立」を掲げます。 ここで言う中立とは、社会に対する無関心ではありません。
特定の政党や候補者への支持は控える。一方で、気候変動、ダイバーシティ、人権、地域との関係といったテーマについて、自社が何を大切にしているかを語る。それは政治の話ではなく、企業としての姿勢の話です。
「政治の話はタブー」と口を閉ざすのではなく、「選挙結果がどうであれ、私たちはこの方向を目指す」そう言える軸を持っている会社の方が信頼を得る可能性が高まります。
この2週間、 関連部署・担当の役割は、選挙の嵐を煽ることでも、隠れることでもありません。風向きを確かめながら、自分たちの立ち位置を冷静に示し続けること。それが今、一番現実的な企業の守り方だと感じます。
「選挙期間に企業がうっかり踏みかねない3つの地雷と、いま考えたい“中立”の話」まとめ(FAQ)
選挙期間中、企業は本当に「何もしない」のが安全なのでしょうか?
必ずしも安全とは言えません。現代の選挙では、企業が意図していなくても政治的メッセージを発したと“解釈される”リスクが高まっています。何もしないことが、結果的に誤解を放置することにつながるケースもあります。
「意図せぬ支持表明」とは、具体的にどんなリスクですか?
選挙カーの背景に企業ロゴが映り込む、生成AIで候補者と企業が関係しているような画像が作られるなど、企業の関与とは無関係に“支持している物語”が拡散されるリスクを指します。否定が遅れるほど、レピュテーションへの影響は大きくなります。
従業員の政治的発言は、どこまでが「個人」でどこからが「会社」になりますか?
法的には個人の自由が尊重されますが、SNS上ではプロフィールや過去の投稿文脈から「会社の一部」と見なされるケースが少なくありません。会社名を明示したアカウントでの過激な政治的発言は、企業評価に直結するリスクがあります。
選挙期間中に、企業がやっておくべき実務的な対策は何ですか?
重要なのは「禁止」ではなく「再確認」です。
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施設管理ルールの明確化SNS
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コンプライアンスガイドラインの再通知
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自社名と政党・候補者名の簡易モニタリング
といった短期間でできる自衛策を整えるだけでも、リスクは大きく下げられます。
2026年における企業の「政治的中立」とは、どういう姿勢を指しますか?
中立とは「無関心」ではありません。
特定の政党・候補者を支持しない一方で、人権・気候変動・地域社会など、自社が大切にする価値観を一貫して語ることが、結果として信頼につながります。選挙結果に左右されない“軸”を示せる企業ほど、評価は安定します。

