
ESG【解説】経産省「コーポレートガバナンス・ガイダンス」から学ぶリスク管理と広報戦略
2025.06.24
2025年4月、経済産業省は『「稼ぐ力」の強化に向けたコーポレートガバナンス研究会 取りまとめ』を公開しました。
「コーポレートガバナンス・ガイダンス」とは、企業の取締役会の構成や実効性、価値創造ストーリーの共有、リスクマネジメントの姿勢までをカバーする包括的な指針です。
本記事では、このガイダンスを危機管理広報・リスクコミュニケーションの視点から読み解き、企業に求められる「説明責任」と「語れる力」について解説します。
Contents
経産省ガイダンスの要点を解説:企業に求められる“攻めのガバナンス”とは
このガイダンスは、日本企業が「稼ぐ力」を高め、持続的に成長していくために、ガバナンスをどう進化させるかを整理したものです。
主なテーマは、次の6つとなっています。
- 取締役会の実効性向上
- 価値創造ストーリーの構築と発信
- 成長投資とリスクテイクの後押し
- 経営陣の指名・報酬制度の見直し
- 株主・ステークホルダーとの対話(エンゲージメント)
- 実効性評価と取締役個人の評価
つまり、“何もしない”ことこそが最大の企業リスクになり得るという視点です。
本ガイダンスでは、企業の未来像や成長戦略を「価値創造ストーリー」として構築し、社内外に発信する重要性が繰り返し強調されています。
このストーリーの担い手はIR部門だけではありません。
広報・経営企画・リスクマネジメント部門が連携し、経営の言語化を支える役割を担うべきだと考えます。
特に危機時には、この「物語」が企業を守る防波堤となります。
一貫した価値観と説明の蓄積こそが、信頼を築く基盤になるからです。
なぜ“説明しないこと”が企業にとってリスクになるのか
ガイダンスでは、経営が適切にリスクを取り、それを監督する取締役会の役割が強調されています。
ここで問われるのは「説明できなかった理由」ではなく、「なぜ説明しなかったのか」という問いです。
つまり、“沈黙”がリスクとして明確に可視化されつつあるのです。
今は広報やリスク管理部門は「何をどう語るか」だけでなく、「いつ語らないといけないか」を見極める判断軸を持つことが求められていると考えます。
ガバナンスは“説明の仕組み”へ──変わる企業経営の常識
これまでガバナンスは「監督」「不祥事予防」としての守りの視点が中心でした。
しかし本ガイダンスでは、説明を通じてリスクを取れる経営を支えること=攻めのガバナンスと捉え直しています。
危機管理広報の本質もまた同じと考えます。
- なぜこの判断をしたのか
- 誰に、どんな文脈で伝えるのか
- どうすれば社会に納得してもらえるのか
こうした思考を社内の各部門に埋め込み、「説明できる組織づくり」を進めることが、現代における広報部門のミッションといえます。
取締役会の実効性評価に広報がどう貢献できるか?
実効性評価は「取締役会がちゃんと機能しているか」を測るものですが、その内容は年々進化しています。
近年では、社会との対話ができているか、レピュテーション(評判)をどう捉えているか、危機時にどれだけ納得感ある説明ができたかなどの視点が加わり始めています。
これらはすべて、広報がデータと経験をもとに貢献できる領域といえます。
記者会見、SNS分析、危機後のアンケート…こうした「社会の声」を評価軸に取り込む動きは、今後さらに進むと考えます。
ガバナンスの実効性を高めるには、「説明できる組織」であることが欠かせません。
広報やリスク管理の立場から、企業の価値観、判断、対応の背景を言葉にする──それがガバナンスの土台を支える行動です。
説明できる企業は、危機にも強く、社会にも開かれ、投資家にも信頼される。
そしてその信頼こそが、「次の一手」を打つ余白を企業に与えるのです。
広報部門の役割は、単なる“伝える係”ではありません。
企業の意思を、社会と結ぶ橋を架ける“構造設計者”でもあります。
参考情報
経済産業省:「稼ぐ力」の強化に向けたコーポレートガバナンス研究会 取りまとめ