RCIJマガジン

RCIJマガジン

コミュニケーション戦略契約解除か継続か──企業が問われる“起用タレント”リスク対応力

2025.05.20

契約解除か継続か──企業が問われる“起用タレント”リスク対応力

広告に起用したタレントのひとこと、ひとつの振る舞いが、企業のブランドに直結する時代。「タレント・インフルエンサーを起用する」という行為そのものがリスクを内包するようになっています。特に私生活に関する報道、いわゆる“スキャンダル”が発覚した際には、契約を解除すべきか、続けるべきか──企業の姿勢が試される局面を迎えることになります。

本稿では、こうした状況で企業の広報・ブランド戦略部門がどう判断すべきか。過去事例をひも解きながら、企業として整えておきたい備えや判断軸を整理していきます。

起用タレントの“不祥事”は、なぜ企業リスクになるのか

かつては、タレントの私生活と企業イメージはある程度切り離されて考えられていました。しかし、現在の広告・広報戦略では、タレントの人柄や生き方がブランドストーリーの一部として活用されることも少なくありません。

その結果、「私生活の問題」は直接的な商品説明以上に、ブランド価値との整合性を問われる要素になっています。とくにSNS上では、視聴者・ユーザーの“瞬間的な感情”が拡散されやすく、企業の対応いかんによっては、批判の矛先が企業そのものに向けられるケースもあります。

判断は「契約解除か継続か」だけではない

タレントがスキャンダル報道の渦中に置かれた場合、企業はおおむね以下の3つの対応パターンを選択することになります:

  • 即時に契約を解除し、広告を差し替える
  • 広告展開を一時停止し、状況を静観する
  • 状況を注視しつつも、契約は継続する(または静かに差し替える)

判断の分かれ目となるのは、報道の信憑性だけではありません。自社のブランド価値、顧客層の感性、タレントの出演ポジションなど、複数の観点から「企業としての一貫性」を持って対応できるかどうかが問われます。

過去の事例に学ぶ:契約解除と継続、企業の対応力の違い

起用タレントに関するスキャンダル報道が出た際、企業は「即解除」か「様子見」かという短期的な判断を求められがちですが、実際にはその背後にある組織の“対応力”こそが分岐点になります。以下に紹介する事例からは、単なるスキャンダル対応ではなく、組織としての方針と姿勢、そして危機管理力の差が結果に表れていることが見えてきます。

事例①:起用タレントの不倫報道と段階的撤退

ある食品・飲料企業では、清潔感や誠実さを訴求するブランドイメージのもと、若手俳優を長期起用していました。ところが、俳優の不倫報道が出た直後、SNS上では「商品とタレントのイメージが真逆」「購買意欲が下がった」との声が急増。

当初は「事実関係が明確になるまで様子を見る」として広告は継続されましたが、続報でやり取りの詳細が報じられたことを受けて、数日以内にCM動画は非公開化。公式コメントでは「現在の状況ではブランド価値を適切に伝えることが難しい」と述べられ、結果的に契約解除に至りました。

この事例では、迅速な事実確認と段階的な判断フローが功を奏し、企業への批判は最小限に留まりました。

事例②:継続を選んだ中堅企業の判断

一方で、不倫報道が出た男性タレントを引き続き起用し続けた健康食品ブランドも存在します。こちらの企業は、現場での誠実な対応や企業担当者の信頼関係を重視し、契約を継続。

結果として、企業側の姿勢がメディアで取り上げられたこともあり、「誠意ある判断をした企業」としてブランド認知を高める契機にもなりました。

継続に踏み切るためには、事前に「こういうケースでは継続する」というポリシーを明文化しておくこと、そして社内外にそれを説明できるストーリーがあるかが重要です。

事例③:海外ブランドの一貫した支援姿勢

海外のスポーツブランドでは、アスリートの不倫や暴言といったスキャンダルが報じられた際にも、契約を解除せず支援を継続するケースが存在します。

「スキャンダルは一時的なもの。ブランドとアスリートの関係は長期的視点で築くもの」という姿勢を貫いたことで、かえって信頼性を得る結果となった事例もあります。

判断の軸は4つに整理できる

これまでの事例からも明らかなように、すべてのケースが「起きたから解除」「誤解だから継続」といった単純な判断で済むわけではありません。自社にとっての“妥当な判断”を導くためには、どんな視点を持ってリスクを評価するのかが重要です。ここでは、多くの企業で参考にされている判断基準を4つの観点に整理して紹介します。

企業が対応を誤らないために、以下の4点を冷静に見極めることが重要です。

観点 説明
顧客層 ファミリー・女性中心かどうか。倫理的な批判に敏感な層は反応しやすい
商材の性質 教育・医療・金融など、誠実性が重視される業界では判断はより慎重に
タレントの役割 メインキャラクターか、ナレーション程度か。影響度によって判断は変わる
ブランド理念 「誠実」「健やかさ」などを掲げていれば、報道との矛盾が強く問われる

ジタバタしないために、企業がすべき備えとは?

判断の基準を持っていたとしても、いざという時に社内での調整に時間がかかったり、誰が責任を持つのかが曖昧になってしまえば、対応は後手に回ります。スキャンダル報道に動じないためには、日頃から“平時に整えておくべき備え”がいくつかあります。以下では、広報・総務・経営企画部門で共有しておきたい備えの基本を4つ紹介します。

1. 契約書でリスクを定義する

「イメージ毀損条項(モラル条項)」を入れるだけでなく、どの程度の事案で解除が検討されるかを契約書内で明文化しておく。

2. 初動対応フローの明確化

広報・法務・経営層の連携体制を整備し、スキャンダル発生時の会議体、コメント案、差し替え手順を平時から確認しておく。

3. ブランド価値とリスクの再定義

「企業として、どんなリスクは許容できて、どんなリスクは許容できないのか」を社内で共有し、判断基準を統一。

4. 危機対応の模擬訓練

実際のケースを想定した社内トレーニングやメディア対応ロールプレイを実施。失敗経験の少ない若手広報担当にとっても、貴重な“経験の場”になる。

まとめ:報道に動じず、“判断軸”を持つ企業であるために

スキャンダル対応において、即断即決の速さよりも、企業としての一貫した判断と説明可能性が重要です。どんな判断を下したとしても、その背景にある“準備”と“納得感”がなければ、社内も社外も企業を信用することはできません。

スキャンダルが起きた時、対応を誤った企業は「何もしなかった」か「ぶれた対応をした」どちらかです。

一方で、準備をしている企業は、報道の段階に応じた対応ができ、社会からの信頼も保ちます。

広告タレントのリスクはゼロにはできません。しかし、「想定していた」かどうかが、企業ブランドの行方を左右するのです。

リスクコミュニケーションと RC認定資格講座について

今すぐ知ろう!

  • 認定資格の取得で得られる専門知識・活用方法
  • 費用や最短取得までのスケジュール
  • RCIJの教材やカリキュラムの特長

RCIJ専任コンサルタントによる
無料のオンライン相談も実施中

個人の方はキャリア相談や受講相談など、法人担当者の方は企業研修や、
会員種別などについて、ご質問を個別にオンラインでお答えします。